パートタイマー・アルバイトの年次有給休暇の付与日数の算定方法と賃金への反映方法について
千葉県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アットロウムです。今回は、パートタイマーの年次有給休暇について解説致します。
年次有給休暇の実態と取得状況について
2019年4月から年次有給休暇の5日以上の取得が義務化されたことにより、従業員と企業の双方に年次有給休暇はさらに広く認知されました。
しかし、有給取得率は政府目標に比べまだまだ低く、正社員には有給があるが非正規には与えない、そもそもパートタイマー・アルバイトには有給がない、と思い込んでいる管理職の方や企業の話を聞くことも少なくありません。そこで、正社員の有給についてはある程度対応出来ているが、パートタイマー・アルバイトの年次有給休暇について、付与日数や取得日の賃金などをどのように対応すればよいか悩んでいる企業様向けに解説していきます。
引用:厚生労働省 年次有給休暇取得促進特設サイト
パートタイマー・アルバイトの有給休暇付与日数は?
所定労働日数と継続勤務期間により、以下の表2のとおり比例付与されます。パートタイマー・アルバイトが一般の労働者(週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、又は1年間の所定労働日数が217日以上の労働者)に該当する場合には、表1が適用されます。1日の労働時間が短くても週5日以上の所定労働日の場合、表1が適用されます。
年次有給休暇が付与される要件は2つあります。(1)雇い入れの日から6か月経過していること、(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと、の2つです。この要件を満たした労働者は、10労働日の年次有給休暇が付与されます。また、最初に年次有給休暇が付与された日から1年を経過した日に、(2)と同様要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出したこと)を満たせば、11労働日の年次有給休暇が付与されます。
厚生労働省HP:労働基準行政全般に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html
所定労働日数が算定出来ない場合
付与日数の決定は、付与の基準日の契約内容(「所定労働日数」または「所定労働時間」)によって判断することとされています。
ただし、正社員と異なりパートタイマー・アルバイトの所定労働時間や日数は、労働条件通知書の内容と実際の勤務内容が大きく違っている、そもそも所定労働時間や所定労働日が曖昧または形骸化している。人員の過不足、繁忙、季節などの影響でシフトが増えたり減ったりするというようなケースが多いのではないでしょうか。そのように週単位で所定労働日数が決められていない場合など、付与日数をどのように考えればよいか、以下、「訪問介護者の法定労働条件の確保について((平成16年8月27日基発第0827001号))、という通達がとり扱い解釈を示しているので参考になります。
非定型的パートタイムヘルパー等について、年次有給休暇が比例付与される日数は、原則として基準日において予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数であるが、予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えないこと。したがって、例えば、雇入れの日から起算して6箇月経過後に付与される年次有給休暇の日数については、過去6箇月の労働日数の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断することで差し支えないこと。
年5日取得の義務化と罰則
年に10日以上の有給休暇が付与された従業員の方は、正社員、パートタイマー問わず義務化の対象となり違反した場合、企業が罰則を受けます。違反した従業員一人当たり30万円以下の罰金が課せられます。
年次有給休暇を取得した日の賃金の計算方法
労基法39条第9項による以下の3パターンの中から選択し決定します。行政解釈では、年次有給休暇の賃金の選択は、手続き簡素化の見地から認められたものなので、自社に適したものを選択することが可能です。ただし、使用の都度、各人に対して使用者の恣意的な選択を認めるものではなく就業規則等にて定める必要があり、必ずその選択された方法による賃金を支払わなければならないこと、とされています。
1.平均賃金
①直近3ヵ月間の賃金合計 ÷ 直近3ヵ月間の暦日数(休日含む)
②直近3ヵ月間の賃金合計 ÷ 直近3ヵ月間の労働日数 ×0.6
①②のどちらかどちらか高い金額を選択します。
引用:神奈川労働局HP 平均賃金について
2.通常の賃金
所定労働時間に勤務した場合に、通常支払われる賃金を支払います。
時間給のパートタイマーの方で、有給休暇取得日の所定労働時間が6時間の場合、6時間に時給額を乗じた金額を支払うことになります。
参照条文:e-GOV法令検索 労働基準法施行規則第25条第1項
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000100023_20210401_502M60000100203
3.健康保険法に基づく標準報酬日額
労使協定を締結し、健康保険法で定められた標準報酬日額に相当する金額を選択します。ただし、パートタイマー・アルバイトは社会保険が適用拡大されているとはいえ、健康保険未加入者も多く選択は現実的ではないケースがほとんどです。
計算方法の選択について
「通常の賃金」を選択した場合、月給制の社員であれば賃金を減額しないという計算で問題なく事務負担も少ないですが、時間給のパートタイマー・アルバイトの場合はそうはいきません。有給取得日に賃金を支払わないと欠勤と同じです。
社員と同じく「通常の賃金」を選択した場合は、1日の所定労働時間によって有給取得日の賃金額がことなるので、1日8時間の勤務予定日と1日6時間の勤務予定日であれば、有給申請が所定労働時間の長い8時間の日に集中することが考えられます。
平均賃金の場合、給与計算の事務負担などが増えますが、過去の勤務実績に応じた賃金になるので取得日の勤務予定時間の影響は受けません。但し、こちらも季節による繁忙がはっきりしている業種であれば、一定の時期に申請が集中してしまう恐れがあります。労使協定を締結し、標準報酬日額で支払う方法もありますがこちらも、取得日の所定労働時間分の賃金と標準報酬日額の差がでることは避けられないでしょう。
そもそも、仕事量が多いから勤務時間を長くして、勤務日数を増やして勤務シフトを予定するので、そこに有給が集中してしまうと、稼ぎ時に売上げが上がらない、顧客に迷惑がかかるなど、の弊害が出てきてしまいます。
このように、選択する方法によって様々な影響が考えられます。有給の取得時期と計算方法については、パートタイマー・アルバイト、現場管理者の方々でよく検討し、計画的に消化できる体制を整備する必要があります。
年次有給休暇の取得率をあげる必要性とメリット
企業の方々と打合せさせていただくと、特に若手の人材採用や定着に苦戦しているお話をよく聞きます。そのような採用に苦戦している環境の中で、今いる従業員の方々の離職を防ぐため不満足要因を減らし、満足度を向上させるため有給の取得率向上を目標としている中小企業が増えてきました。
いまの時代、女性の育児休業取得率は高くて当たり前なので、パートタイマー・アルバイトの有給をしっかり管理出来ている、男性の育児休業が取れている、有給消化率が高いという事は、デジタルシフトや働き方改革に対応できている、ルーティンワークが属人的になっていない、休んでも顧客や同僚に迷惑がかからず基幹的業務の仕組み化が出来ているというような評価を外部から受けるそうです。
確かに、パートタイマー・アルバイトでもしっかり有給取得出来る、男性社員が有給・育休を満足にとれている企業は、担当業務がブラックボックス化されておらず、タイムリーな情報共有・発信が容易、緊急時の危機管理・事業継続対策もできているような企業を想像させるのだと思います。
以下、厚労省のサイトなどを参考に、事業の継続性、人材投資といった観点からも戦略的にパートタイマー・アルバイトの年次有給休暇について対応整備することをお勧めします。
参考:厚生労働省 働き方・休み方改善ポータルサイト
https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/
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