【2022年4月施行】改正パワハラ防止法への対応はお済みですか?社労士が解説します
千葉県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アットロウムです。令和4年4月1日から中小企業にも職場のパワーハラスメント対策が義務化されました(労働施策総合推進法「以下、パワハラ防止法」)。今回は、法改正の内容と中小企業におけるパワハラを中心としたハラスメントの実態と対応について解説します。
そもそも防止すべきパワハラとは?
10年前にくらべここ数年、パワハラに関するお問い合わせは確実に増えていますが、
そもそもパワハラの定義や判断基準を把握されていないケースがほとんどです。
曖昧だったパワハラの内容がパワハラ防止法により定義され、企業や労働者がとるべき雇用管理上の措置等が定められていきました。法改正に対応するためにもまずはパワハラというものを正しく理解する必要があります。
3つの定義
6つの行為類型(パワハラ)セクハラ・マタハラ
具体的な例をみてみましょう。
パワハラ指針による判断基準の要素
厚生労働省によるパワハラ指針では「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。」
としています。
実務において、業務指示・指導との境界線を判断するための基準として以下「」内の厚生労働省の指針が参考になります。
「この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。」
引用:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令 和2年6月1日適用】
パワハラを理解することの必要性
企業の現場は、パワハラ上司のもとで部下が潰されていく、といったよくあるパワハラのケースに限りません。
何でもかんでも、パワハラだ!ハラスメントだ!と騒ぎ立てる従業員、それに萎縮してしまい必要な注意指導が出来ず職務を果たせなくなっている管理職や経営者という状態に陥っている企業も少なくありません。
法令に反するような業務命令をし続ける、企業秩序を乱すような行為を指導できない状態では、職場環境は益々悪化し離職率は高いまま、生産効率の悪化による競争力の低下、従業員からの損害賠償請求リスクなど企業の内外で致命的な問題を発生させてしまう恐れがあります。
指導とパワハラの違いを認識してハラスメントを正しく捉え、企業・上司は労働者の安全に配慮する負うべき義務があることを自覚して、企業・上司が持つ労務管理上の指揮監督権限を正しく行使していく必要があります。
企業に義務化されたパワハラ防止措置の内容
事業主が必ず講じなければならない具体的な措置の内容は以下のとおりです。
パワハラ防止のための望ましい取組の内容
引用:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)リーフレット
パワハラ防止の義務化に対応した就業規則などの整備内容について
ハラスメント防止について、事業主の方針等を明確にして周知・啓発
・ハラスメントを行った従業員に対する懲戒指導の内容、解雇など処分を記載
相談(苦情も含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備と周知・啓発
・窓口を設置して担当者を配置し適切な対応を行えるようにする
中小企業におけるパワハラの実態と対応方法について
パワハラ防止法の内容を理解し就業規則などを整備することも重要ですが、重大な経営リスクとなりうるパワハラ問題がある場合、どうやって対応・改善していくか考える必要があります。パワハラのメカニズムを確認した上で、具体的な対応策を検討・解説します。
ハラスメント発生の背景・原因
パワーハラスメントが発生している職場の特徴企業調査において、パワーハラスメントに関連する相談がある職場に共通する特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」が45.8%と最も多く、「失敗が許されない/失敗への許容範囲が低い職場」(22.0%)、「残業が多い/休みが取り難い職場」(21.0%)、「正社員や正社員以外(パート、派遣社員など)など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」(19.5%)が続いています。従業員調査でも同様の傾向が示されています。
引用:日本総合研究所 ハラスメント対策を契機に「働きがいのある職場」をめざす
事例と対策
① 経営者・役員(経営層)がハラスメントをしている
➜ハラスメントは重大な経営リスクと理解してもらう必要あり。
業績の維持向上、マネジメントなど経営責任に対するプレッシャーや睡眠不足が背景にあると感じられるケースが多いです。企業名公表や企業・個人として刑事責任・民事責任を負うリスクがあることを認識してもらう必要があります。
① 客観的に大した事ではないと思われる内容をパワハラだと主張してくる部下に上司が手を焼いている
➜関係性がこじれてしまった結果、このような状態に陥ることが多いようです。
労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ就業環境が害された、と感じる言動の判断に当たっては「平均的な労働者の感じ方」すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当とされています。
※なお、言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
部下と上司の間で業務指示・指導とパワハラの境界・基準が曖昧ではいくら話合っても平行線のまま、いつまでたっても解決に至たらず離職してしまうというケースが少なくないです。
厚生労働省のパワハラ指針では、労働者の責務としてパワーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、事業主が講ずる措置に協力するように努めることを求めています。
感覚というのは人それぞれ異なりますが、受け手の主観のみではなく基準をもとに客観的にパワハラは判断されます。社内外の研修などでハラスメントに対する理解を深め共通認識を持つことで、改善につなげていくことが重要です。
パワハラ対策に取り組むことについて
ハラスメントの問題を放置していると重大な経営リスクとして顕在化するおそれがあります。表面的な措置しか行わずパワハラ行為者(加害者)に指導した結果、パワハラはおさまったが当人がストレスで参って休職してしまった、ということもあります。
ハラスメント対策をしっかり行い効果的な取組が出来れば、風通しがよくなり必要な情報が必要な部署等に流れ企業の生産性があがる、離職率低下、メンタル不調社員の減少(採用定着コスト減少)など経営にいい影響を与えます。
効果を実感した取組
上記の取組のうち、効果を実感した比率が最も高いのは、「管理職を対象にパワーハラスメントについての講演や研修会を実施した」で、実施企業の74.2%で効果を実感しています。また、「一般社員等を対象にパワーハラスメントについての講演や研修会を実施した」(69.6%)、「アンケート等で、社内の実態把握を行った」(59.4%)、「職場におけるコミュニケーション活性化等に関する研修・講習等を実施した」(56.5%)など、管理職や一般社員に直接的に働きかける取組において効果を実感している比率が高くなる傾向が見られます。
パワハラの予防・解決以外に得られた効果
パワハラの予防・解決の取組を進めた結果、パワハラの予防・解決以外に得られた効果としては、「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」が取組実施企業の43.1%で最も高く、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.6%)、「管理職が適切なマネジメントができるようになる」(28.2%)といった項目の比率が高くなっています。
厚生労働省 あかるい職場応援団HP 「ハラスメント基本情報」データで見るハラスメント
まとめ
中小企業の就業規則を確認させていただくとセクハラに関する方針などの記載はあっても、パワハラについて記載されている規則はまだまだ少なく、パワハラ問題に取り組んでいる企業が少ないことを示してると感じます。労働力人口の減少、次世代を担う若手の採用育成、多様な価値観を持つ労働者の増加に対応していかねばならない企業にとって経営陣含め全従業員で取り組むべき課題としてパワハラ防止策を進めることは非常に重要です。
創業当初から、労使紛争の予防対応に取り組んできた社会保険労務士法人アットロウムが、企業の現場で直接実務に携わる方々のお役に立てる事があるかもしれません。何かありましたらお気軽にご相談ください。