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残業代の適正な支払いを徹底するために~企業が知っておくべき労働基準法のポイント~

2023.05.14 コラム労働時間管理賃金

働いている人のミニチュア

このような方は是非読んでください!

・労働基準法に関する知識がなく、残業代の支払い方法について迷っている
・社員から残業代のクレームが多く、トラブルを避けたい
・労働基準監督署からの指摘を受けたことがある

今回のテーマについて

労働基準法には、残業代の適正な支払いについてのルールが定められています。しかし、企業によっては、これらのルールに違反しているケースもあります。本記事では、労働基準法に基づき、残業代の支払いについて正しく理解し、トラブルを避けるためのポイントについて解説します。

労働基準法に基づく残業代の支払いとは

法定内残業と法定外残業の区別

一言で残業といっても、⼀般的に考えられている「残業」と法律上の「時間外労働」が 異なっている場合があるので注意が必要です。就業規則や労働条件通知書に定められた「所定労働時間」を超える時間を残業と考える企業や従業員の方が多いのではないでしょうか。
法律上の「時間外労働」とは、労働基準法で定められた「法定労働時間」(1⽇8時間・1週40時間)を超える時間のことをいいます。

””例えば、始業時刻9:00、休憩時間12:00~13:00、終業時刻17:30の会社であれば、所定労働時間は7:30になります。
この場合に、9:00に始業し18:00に終業した労働者については、いわゆる「残業」は30分になりますが、法律上の「時間外労働」は無しとなります。ただし、残業手当の算定基準を、「所定労働時間」を超える時間とするか、「法定労働時間」を超える時間とするかは、労使の定めによって決まります。””

引用:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

つまり、一日の所定労働時間が8時間の場合、所定労働時間を超えた残業=法定外残業
、ということです。就業規則等の定めにもよりますが、1日の所定労働時間が7時間の会社や、通常勤務は8時間だが短時間勤務制度を利用中なので6時間という労働者の場合、30分残業したとしても法定内残業になります。

法定内残業の割増賃金

労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めています。これを超えて残業させるときは、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金の支払が必要になりますが、この時間を超えなければ割増し賃金を支払う必要はありません。

法定外残業の割増賃金

割増賃金の支払が必要になります。
例えば、通常1時間当たり1,000円で働く労働者の場合、時間外労働1時間につき、割増賃金を含め1,250円以上支払う必要があります。

時間外手当の支払い

上記の様に所定労働時間を超えた労働時間は法定内、法定外のどちらかで割増が必要かどうか異なります。さらに深夜割増率(深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には2割5分以上)が加わった場合、労働基準法で定められた割増は以下の例になります。

時間外労働の割増賃金について

引用:東京労働局 「しっかりマスター労働基準法―割増賃金編―

残業代トラブルの解決方法

残業代を適正に支払うための体制の整備

法令違反とならないように残業代を正しく計算して支払うには、まず労働時間を正確に記録する必要があります。労働時間を記録したらそれをもとに良からぬ事を考えて何か不都合な事を要求してくる従業員が出てくるのではないか?というご相談を受けることがあります。長時間労働が蔓延し残業代をまともに払えていない状況では、未払い残業で労働者から裁判を起こされる。労働基準監督署から指摘を受け過去の未払い賃金の支払指導を受けるなどのリスクが常につきまといます。

労働時間の適正把握

労働時間把握は事業者の義務になっており、具体的には以下の方法が示されています。

解釈通達の概要

引用:出雲労働基準監督署「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました

よくある例として
・始業、終業時刻は記録されているが、休憩を取得していた時間は記録されておらず客観的証明が出来ない(拘束時間と実労働時間が明らかでない)。
・タイムカード打刻機があるのに使ってくれない従業員がいて労働時間の記録がない。
・出勤簿に押印のみ。
・残業する場合、所要時間、必要性などを上長に申し出て事前許可を得るなどなく、野放しになっている。

これらに1つでも該当する場合、管理体制にリスクがあるので見直しをおすすめします。

労働基準監督署からの指摘があった場合の対処法

労働基準監督署とは厚生労働省の機関であり全国に存在しています。労働基準監督署の内部組織に、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付や、相談対応、監督指導を行う「方面」(監督課)という部署があり、残業代不払いなどの違法行為の調査指導を行います。この部署の担当官である労働基準監督官からの是正勧告は法的な強制力がない行政指導ですが、送検され罰則が適用される可能性があります。弊所でも毎年、指導を受けた企業様からご相談がありますが、いきなり「法令違反があったので送検します」とはならず、まずは違反状態を改善するよう指導が入ります。強制力がないのであれば守らなくても・・・・。という意見も聞きますが、残業代の計算方法の誤りなどは、従業員からの指摘で発覚、監査で発覚といったケースの方が大事になることがあり、労働基準監督署の指導内容の方がよっぽど優しいと感じる事例もあります。人材の採用定着の観点からも、指導を受けたらいい機会と捉えてホワイト競争に勝ち抜けるよう雇用環境の整備を行ってみてはいかがでしょうか。実際に、タイムカードを打刻しない従業員への指導など、形骸化した就業規則を整備してきっちり労務管理を行うための外圧として行政指導を受けた事を理由に内外へ発信して働き方改革を推進、人事労務の改善を進めたケースは多いです。

残業代トラブルが発生した場合の対応策

例:残業代が基本給の中に含まれている。
残業代を含めた固定残業代制は過去の裁判例により、有効とされています。有効と判断されるためには、

①固定残業代(定額の残業代)が、他の賃金と明確に区分されていること。
②固定残業代(定額の残業代)は、何時間分の残業代なのか。
③時間外労働時間(残業時間)が、②の時間を超えた場合は、別途割増賃金を支払うなどが、労働契約の中身としてしっかりわかること。これらの内容が労働契約書、就業規則等に明確に定められていて給与明細などと整合性が取れている事が求められます。

労働基準監督署が調査に入り固定残業代制を導入した事例はこちらをご参照ください。

例:労働時間管理をしておらず、退職した従業員が労働基準監督署経由で残業代請求をしてきた、解決事例、対応策はこちらをご参照ください。

残業代を適正に支払うための体制の整備・労働時間の適正把握

まずは計算根拠となる労働時間の適正把握が一丁目一番地です。従業員数が30名以上であれば勤怠管理システム導入の検討をおすすめしています。体制整備のプロジェクトをご支援させて頂いたケースでは、課長職以上の時間管理を一切していなかった企業様がありましたが、ICカードによる勤怠管理を導入して定着させることから始めました。

就業規則、賃金規程の見直し

労働時間がクリアになったら次は、就業規則や賃金規程との不整合がないか確認が必要です。そもそもの労働時間制度が企業の活動実態にあっていないケースがあります。こちらの事例のように通常の労働時間制度でなく変形労働時間制を導入した方がいい場合があります。
一定の時間外労働が確実に発生するなら残業代を固定で払うことも選択肢として出てきます。自社にあった労働時間制度を見極めて残業代を法令違反なく適正に払えるよう就業規則、賃金規程に落とし込んでいきます。

給与計算を正しく行う

残業代の時間単価の算出を適正に行うため、所定労働時間や計算に含める手当をしっかり確認します。

引用:東京労働局「しっかりマスター労働基準法―割増賃金編―

体制を整備していく中で起こりうること

知識不足により意図せず適正な残業代を支払えていなかった。問題があると知っていたけれど解決を先延ばしにしてきた企業が体制を整備していく中で、様々な課題が見つかります。
・従業員側が時間管理を望んでおらず自由に動きたいと思っていて整備が進まない。
・独身者や家庭の居心地がよくない従業員は職場にいたがる傾向(無駄な居残り、休日に職場にくる)
・会社にとって不必要な残業(住宅ローン返済や小遣い稼ぎ目的のいわゆる生活残業)の実態が明らかになる。
・上司、先輩が残っているので帰りづらい。不必要な付き合い残業の実態が明らかになる。
・サービス残業をしないと現場が回らないので中間層が自己犠牲の精神で隠れて残業している。
・長時間労働を美徳としてもてはやされる現場の雰囲気がある。

賃金不払残業がない企業にしていくためには、単に会社が労働時間を把握して規程を整え正しく給与計算を行うだけでは対処できない面があります。少ない労働時間で成果を出す人を評価するなど職場風土の改革、適正な労働時間の管理を行うためのシステムの整備、管理職層の業務・労働時間に対するマネジメント能力の向上、時間管理の責任体制の明確化とチェック体制の整備等を通じて、労働時間の管理の適正化を図る必要があり、労使の主体的な取組を通じて、本来目指すべき高生産性を実現できる人事労務管理の在り方につながります。

まとめ

労働基準法に基づき、残業代の適正な支払いを徹底することは、企業にとって大変重要です。法定内残業や法定外残業、時間外手当など、正しい支払い方法を理解し、トラブルを未然に防止しましょう。また、残業代トラブルが発生した場合には、適切な対応を行うことが必要です。企業としては、残業代トラブルを未然に防止するために、適正な体制の整備も必要です。本記事が、企業の労務管理に役立ち、発展につながることを願っています。

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執筆者情報
社会保険労務士法人アットロウム 代表社員 藤崎 祐也
保有資格特定社会保険労務士
一言当事務所は2014年に栗田社会保険労務士事務所という個人事務所から社会保険労務士法人アットロウムへと法人化しました。創業から30年を超えても一貫して「労使紛争の予防対応・人事労務の手続きサポート」を主軸に取り組んできました。 近年では、「デジタルツールを利用した業務改善・生産性向上」「労務監査で人事労務リスクを抽出改善し事業承継・企業価値の向上サポート」に注力しています。 「人事労務を通じて持続可能な企業づくりと地域の発展を支援する」ことを弊所の役割と捉え、何が出来るか日々探求し、実践行動しています。
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