「育児・介護休業法改正」と労務管理の実務について
- 2022.03.30 コラム
千葉県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アットロウムです。今回は、2022年4月以降に施行される「育児・介護休業法改正」の内容と実務の現場における必要な対応と準備について紹介します。
育児・介護休業法について
正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といい、従業員の性別を問わず、育児・介護と仕事を両立するための環境作りのサポートなどを目的とした法律です。平成4年の施行から、度重なる改正が行われています。
法律の制定・法改正の背景には「出産・育児・介護による離職防止、雇用の継続と安定」「少子化問題」「高齢者の増加」といったものがあります。
育児・介護休業法に定められた両立支援制度とは?
育児・介護休業法による制度利用を申し出・取得をした労働者に対し、解雇、降格、減給、その他の不利益な取扱いは禁止されており、職場における妊娠・出産・育児介護休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務となっています。
また、法律の基準を満たしていれば、基準を超えた企業独自の育児・介護支援制度を設けることも可能です。
企業の現場における育児・介護休業取得の現状と法改正の背景と目的
企業の方からよく聞く内容としては
・女性従業員の育児休業は何とか取得してもらえる環境になったけど男性従業員の取得はまだ難しい。
・男性従業員に育児休業の取得を促したが現場との兼ね合いで数日しかとれない状況が判明。数日程度しか取れないならば、と有給休暇で対応してもらっていて、中長期的な休みが取れない状況が続いている。
・経営者と若手従業員が頑張って男性育児休業を取得しやすい環境をつくろうとしているが、現場の理解が得られず取得に至らない。
・育児休業を取得してくれたが職場復帰せず辞めてしまい、現場従業員が疲弊している、現場の士気低下が起きている。
など
特徴として、女性従業員は制度の利用方法に関するご相談が多く、男性従業員はそもそも制度の利用まで到達できていない、という内容が多いです。
当法人の顧問先様をみますと、従業員数50名以上の企業様、または、女性が多い職場(医療介護、販売など)では、女性従業員の育児休業はかなり定着しており経営者、人事総務担当者の方達も慣れておられますが、男性労働者の育児休業取得の実績は件数も少なく取得期間も数日から2ヶ月以内がほとんどで1年取得するケースは非常に少ないのが現状です。
従業員数20名以下の企業では、男性従業員の育児休業取得どころか女性従業員の育児休業取得の実績すら無いことも少なくありません。
以下、東京労働局資料、厚生労働省の統計資料がこれらの実態を表しております。女性の就業継続率・第二子の出生率は、男性の家事・育児時間が長いほど高い傾向という事実があり、出生率が低迷している日本社会は対策が必要ということになります。こういった企業の現場と日本社会の実情を踏まえて、男性の育児休業の取得促進を主な目的として法改正がなされました。
育児・介護休業法の改正内容・施行日、主なポイント
A:令和4年4月1日施行
①有期雇用労働者の育児休業・介護休業の取得要件緩和
②個別周知・意向確認の義務
③育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務
B:令和4年10月1日施行
④産後パパ育休制度
⑤育休の分割取得等
C:令和5年4月1日施行※(従業員数1,000人超の企業)
⑥育児休業取得状況の公表義務化
A①:令和4年4月~有期雇用労働者の育児休業・介護休業の取得要件緩和
改正前の、「引き続き雇用された期間が1年以上」という取得要件がなくなります。雇用期間が1年未満の有期雇用労働者には育児休業申し出の権利が付与されていなかったところ、今回の法改正で育児休業申し出の権利が付与されました。但し、労使協定を締結した場合「引き続き雇用された期間が1年未満の従業員」からの取得申出は拒むことが可能です(育児介護休業法第6条)。
既に締結している労使協定において除外となっていても、改めて労使協定を締結していただく必要があるのでご注意ください。
改正育児・介護休業法に関するQ&A(【Q4–3】【A4–3】)
A②:令和4年4月~個別周知・意向確認の義務
どのような内容をどう実施すればよいか。
労働者から、本人又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申出があった場合に、当該労働者に対して、育児休業制度等(令和4年10月1日からは、出生時育児休業(通称:産後パパ育休)も含みます。)について周知するとともに、制度の取得意向を確認するための措置を実施する必要があります。周知事項は、以下の4項目となります。
(1)育児休業・出生時育児休業に関する制度
(2)育児休業・出生時育児休業の申し出先
(3)育児休業給付に関すること
(4)労働者が育児休業・出生時育児休業期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
また、これらの個別周知及び意向確認の措置は、以下のいずれかの方法によって行う必要があります。
(1)面談(オンラインも可)
(2)書面交付(郵送によることも可能)
(3) FAX
(4)電子メール等
※(3)・(4)は労働者が希望した場合のみ
(参考)リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)
実施すべき義務は法律上、事業主にあります。企業規模にもよりますが実務上は、所属長や直属の上司、人事総務部門の担当者などが、これらの内容について委任を受けて、従業員との間で行うことも多いと思います。
面談等の際には、取得を控えさせるような働きかけ、嫌がらせ等のハラスメントは当然禁止されていますが、自社の制度と法律を正しく理解していないと、従業員とトラブルになることがあります。ご注意頂きたいよくある例として以下があります。
・「引き続き雇用された期間が1年未満の従業員」は除外されていることが周知徹底されていなかった
・直属の上司と人事総務担当から説明をうけた内容が違っていた(賞与や退職金への影響、職場復帰の業務、異動などの労働条件について)
A③:令和4年4月~育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務と措置、実施項目の決定
企業は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
※複数の措置を講じることが望ましいとされています。
(1)育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
(2)育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
(3)自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
(4)自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
※産後パパ育休については、令和4年10月1日から対象
(参考)リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)
これらの中から、自社にあう方法の導入が求められますが、既に育児休業の取得実績がある企業であれば、相談窓口のような対応者がいらっしゃると思います。
その場合も、相談体制の窓口設置と対応者を置いて周知すること、および、形だけでなく実質的な対応が可能で利用しやすい体制の整備が整えられているか確認する必要があります。
B④⑤:令和4年10月~産後パパ育休制度の創設。育休の分割取得等
現行の育児休業に加えて創設され、女性の産休に相当する期間の8週間以内に4週間まで休暇が取得できます。2回の分割取得が可能。労使協定を締結している場合に限り、休業中に就業することが可能、といった特徴があります。
C⑥:令和5年4月~ 育児休業取得状況の公表義務化※(従業員数1,000人超の企業)
年1回、インターネットの利用(自社のホームページ、厚生労働省の「両立支援ひろば」等)、その他の適切な方法により自社の仕事と育児等の両立支援の取組状況を外部に公表することが求められます。
今後、中小企業にも拡大することが予想されます。事業規模に関わらず、育児休業等の取得業況についてまとめておくとことで法改正への対応がスムーズになる、経営に関するデータとして募集採用に活用もできるでしょう。
対応を怠ることによる企業リスクと取り組むことの効果
法改正により新たな義務が企業に課せられましたがこれらに違反している場合、事業主は行政から報告を求められます。さらに、行政より必要な措置を講ずるように「助言」「指導」「勧告」を受けることがあります。
勧告に従わない、報告を怠った、もしくは虚偽の報告を行った場合など罰則として、企業名の公表と、最大20万円の過料の処分が行われます。(育児介護休業法第66条)
利用を申し出る従業員、企業(上長、人事総務担当者、経営者など)ともに法律と自社の制度をしっかり理解した上で妊娠出産から職場復帰まで考える必要があります。復帰までのプロセスをしっかり決めても、妊娠・出産後の思わぬ心身不調、予期せぬ環境の変化が起きます。法改正に対応した制度設計への対応はもちろんですが、職場の両立支援に対する雰囲気、休業中の相互の情報共有などコミュニケーションの取り方などが離職の予防、スムーズな職場復帰の鍵となります。法改正に対応できていないなど自社の制度に不備があると、従業員の会社に対するイメージは一気に下がり、横のつながりでこれらの情報が一斉に従業員の間で広がり不信感を与えてしまうことも少なくないです。
男性の育児休業の中長期的な取得は決して楽な道のりではないですが、男性社員でもしっかりと育児休業を取得できる環境を整えることができれば、多くのプラスの効果が見込めます。男性の育児休業取得率が高い場合、業務分担、仕事の効率、フォロー体制などの働き方の見直し・適正化がされていて働きやすい職場環境のである可能性が高いと判断される傾向にあり採用活動でアピールできます。企業の将来を担う次の世代の人材確保・定着にも有利に働くなど、事業の安定・継続性といった観点からも多くのメリットが考えられます。
まとめ 企業が準備しておくこととスケジュール
令和4年4月以降、段階的に実施されます。社内ルールの見直し、実施すべき項目を決めつつ制度設計、就業規則・労使協定の見直し・改訂を検討していく流れとなります。
厚生労働省のホームページにて、就業規則の規定例、社内研修用、制度の周知・意向確認、保険料免除などの資料等(リーフレット、動画、書式)が用意されているので、自社の内容にあわせて使用することができます。法改正の内容以外も掲載されているので幅広く役立ちます。
法改正によりさらに柔軟で取得しやすい制度になりましたが同時に複雑にもなりました。専門家である当法人も制度にかかわる行政の発信がある都度、詳細な情報追いかけている状況ではありますが、毎年50件以上の育児休業取得に関する相談支援、男性育休取得の支援実績が多数ある社会保険労務士法人アットロウムが、企業の現場で直接実務に携わる方々のお役に立てる事があるかもしれません。何かありましたらお気軽にご相談ください。