今年10月からの社会保険適用拡大|対象者と対応方法を社労士が解説!
令和4年10月から短時間労働者へ社会保険の適用拡大!社会保険労務士が解説します!
千葉県を中心に、企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アットロウムです。いよいよ令和4年10月から被保険者数100人を超える企業の短時間労働者へ社会保険の適用が拡大されます。今回は適用拡大の内容と10月に向けた準備と対応について解説します。
適用拡大となる企業等の概要
現在、厚生年金の被保険者数が500人を超える企業等で週20時間以上働き加入要件に該当する短時間労働者は、厚生年金保険・健康保険(社会保険)の適用対象となっています。
適用拡大は以下のスケジュールで行われます。
引用:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/guidebook/
加入対象者となる要件 勤務期間要件が令和4年10月に撤廃
以下の図のチェックに該当する場合、加入対象者となります。
「勤務期間1年以上見込み」の要件が、令和4年10月以降に撤廃されます。既に適用拡大の対象になっている企業等においては、この要件に該当しないことを理由に加入していない労働者がいないか確認する必要があります。
引用:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/guidebook/
加入対象者の把握
加入対象者の要件をもとに対象者の把握を行います。上記図のとおり要件がありますが、いざ対象者を把握しようと調べると様々な疑問が出てきます。適用拡大に向けて確認が必要になりそうな事例を「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年10月施行分)」(以下「Q&A集」)からご紹介します。
①週所定労働時間の確認
問 32 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週 20 時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週 20 時間以上となった場合は、どのように取り扱うのか。
(答)実際の労働時間が連続する2月において週20時間以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。
問 29 所定労働時間が1か月単位で定められている場合、1週間の所定労働時間をどのように算出すればよいか。
(答)1か月の所定労働時間を12分の52で除して算出します(1年間を52週とし、1か月を12分の52週とし、12分の52で除すことで1週間の所定労働時間を算出する)。
②月額賃金が8.8万円以上
問 39 短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、月額賃金が8.8 万円以上であるほかに、年収が 106 万円以上であるかないかも勘案するのか。
(答)月額賃金が8.8万円以上であるかないかのみに基づき、要件を満たすか否かを判定します(年収106万円以上というのはあくまで参考の値です。)。
問 45 短時間労働者として届出を行った場合「月額賃金が 8.8 万円以上」に該当するかどうかは、各労働者について毎月確認する必要があるのか。また、被保険者資格を取得後に月額賃金が 8.8 万円未満となった場合は、被保険者資格は喪失するのか。
(答)原則として、資格取得後に雇用契約等が見直され、月額賃金が 8.8 万円を下回ることが明らかになった場合等を除き、被保険者資格を喪失することはありません。そのため、毎月確認する必要はありませんが、雇用契約等に変更はなく、常態的に 8.8 万円を下回る状況が続くことが確認できる場合は、実態を踏まえた上で資格喪失することとなります。
③雇用期間要件
問 38 雇用期間が2か月以内である場合は、雇用期間が2か月を超えることが見込まれることとして取り扱われることはないのか。
(答)雇用期間が2か月以内である場合であっても、次の(ア)(イ)のいずれかに該当するときは、定めた期間を超えることが見込まれることとして取り扱うこととし、最初の雇用期間を含めて、当初から被保険者の資格を取得します。
(ア)就業規則、雇用契約書等その他書面においてその契約が更新される旨又は更新される場合がある旨が明示されていること
(イ)同一の事業所において同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により2か月を超えて雇用された実績があること
ただし、(ア)(イ)のいずれかに該当するときであっても、労使双方により、2か月を超えて雇用しないことについて合意しているときは、定めた期間を超えて使用されることが見込まれないこととして取り扱います。
問 35 適用拡大に関する雇用期間要件が令和4年10月に廃止されるが、施行日以降、被保険者資格はどのように判定するのか。日々雇用されている方や、2月以内の期間を定めて使用される者についても、適用拡大の対象となるのか。
(答)適用拡大に関する雇用期間要件の廃止により、施行日以降、4分の3基準を満たさない短時間労働者の被保険者資格については、4要件により判断することとなります。
なお、日々雇用されている方や、2月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないものについては、被保険者の適用除外の規定に基づき被保険者資格を判断することとなります。
④学生は適用除外
問 33 「学生でないこと」について、学生とはどのような者を指すのか。通信制課程に在学する者は対象となるのか。
(答)「学生」とは、主に高等学校の生徒、大学又は短期大学の学生、専修学校に在学する生徒等※が該当しますが、卒業した後も引き続き当該適用事業所に使用されることとなっている者、休学中の者、定時制課程及び通信制課程に在学する者その他これらに準じる者(いわゆる社会人大学院生等)は対象から除かれることとなります。
※(参考)厚生年金保険法施行規則第9条の6に規定する学生
・高等学校に在学する生徒
・中等教育学校に在学する生徒
・特別支援学校に在学する生徒
・大学(大学院を含む)に在学する学生
・短期大学に在学する学生
・高等専門学校に在学する学生
・専修学校に在学する生徒
・各種学校に在学する生徒(修業年限が1年以上である課程を履修する者に限る)
・上記の教育施設に準ずる教育施設に在学する生徒又は学生
企業としての対応方針を検討
要件を満たす場合、短時間労働者として厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。
被保険者が増えることで当然、法定福利費が増加します。法定福利費や人件費の企業負担、パートタイマー等の加入の希望等を確認しながら、加入要件にもとづき働く日数や時間を見直していく流れになります。
社会保険料の本人負担・事業主負担が発生するので、負担がどの程度増えるか事前に確認しておくと良いでしょう。厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイト内に「社会保険料かんたんシミュレーター」があるので試算することができます。特設サイト内に従業員向けの説明資料があり、社会保険に加入するメリットが説明されています。但し、配偶者の勤務先の家族手当の支給要件が「健康保険の被扶養者」ということも考えられるので、従業員とコミュニケーションをしっかり取って影響がある範囲を事前に確認しておくことをお勧めします。
参考:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/guidebook/
社会保険の被保険者の区分について
適用拡大となる事業所は、一般の被保険者と短時間労働者を分けて管理することになります。
一般被保険者
「1週の所定労働時間」および「1月の所定労働日数」が、同一の事業所に使用される通常の労働者の所定労働時間および所定労働日数の4分の3以上(以下「4分の3基準」という)である労働者
区分により直接、社会保険料が変わるわけではありませんが、「算定基礎」「月額変更」などの手続きを行うとき、支払い基礎日数の算定日数が異なるので、誤った標準報酬月額が決定されてしまう恐れがあります。雇用契約や労働実態が区分の要件に合っているか確認の上、区分に応じて管理する必要があります。
すでに適用拡大となっている事業所の短時間労働者が、いつのまにか「4分の3基準」以上に働くことが常態となっているケースがあるので注意が必要です。
※以下「Q&A集」参考
問5 4分の3要件を満たさない短時間労働者として被保険者資格を取得したが、雇用契約の変更等で正社員等の一般被保険者として適用要件を満たすこととなった場合、どのような手続が必要になってくるか。
(答)事業主は、被保険者に係る短時間労働者であるかないかの区別に変更があったときは、当該事実が発生した日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者区分変更届/厚生年金保険70歳以上被用者区分変更届」を日本年金機構(以下「機構」という。)の事務センター(又は年金事務所)(以下「事務センター等」という)に届け出る必要があります(健康保険組合が管掌する健康保険については、健康保険組合へ届け出ることになります。)。
引用:「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年10月施行分)」
まとめ
適用拡大の対象となっていない企業にも、今回の拡大は影響します。自社の従業員の配偶者が「健康保険の被扶養者、国民年金の第3号被保険者」となっていた場合、当該配偶者が自分の勤め先で被保険者となれば、社会保険の異動・変更手続きを行うことになります。
従いまして、自社の従業員に、扶養になっている配偶者(被扶養者)が10月の適用拡大で被保険者となるか事前に確認しておくとスムーズです。※以下「Q&A集」参照
問 40 健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が 130万円未満であることという収入要件があるが、この要件に変更があるのか。
(答)健康保険の被扶養者の認定について、収入要件の変更はありません。なお、年収が 130万円未満であっても、4分の3基準又は4要件を満たした場合は、厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。
企業負担を考慮しつつ、パートタイマーの労働時間を延長して社会保険に加入してもらいより戦力化を図るなど人材の採用定着のためのプラス策を講じる、または、人件費の抑制するための策を検討しなければならないなど対応に迫られています。
2024年10月以降は51人以上へ範囲が拡大するので、今年10月で適用拡大に該当しない企業も今のうちから対応方法を検討しておくと良いでしょう。弊所はすでに適用拡大となっている501人以上の企業の支援実績がございますので、お気軽にご相談ください。