経営者なら知っておきたい労働契約の締結の基本とは?
企業と従業員が働くことについて合意して契約をした内容は、企業と従業員の関係性、経営の基盤となる重要な要素です。労働契約の締結における基本的なポイントを経営側の視点から解説します。
労働条件の明示義務
契約は、双方の合意により口頭でも成立します。但し、労働基準法第15条の定めにより締結の際に労働条件を明示する必要があります。
明示する内容と方法
引用 宮城労働局 「採用時の労働条件の明示」
パートタイマーの場合
パートタイム労働法第6条により「事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときは、速やかに、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書の交付等により明示しなければならない。」と定められています。
<よくあるトラブル>
①固定残業代がつくなんて知らなかった。その時間分を超えないと残業代が出ないなんて聞いてない!!
②入社前の説明より休日数が少ない!!
③パートにも特別休暇があると思っていたのに!!
④入社後すぐでも育児休業が取れると面接のときに言われたのに!!
このような例は挙げればきりがありません。ほとんどの労使トラブルが個別の従業員との労働条件や会社のルールを「曖昧」「不透明」「不明確」といった状態のまま放置していることにより引き起こされます。採用定着で後手に回っている企業ほど状況が難しい事が多いです。但し、トラブル予防の観点、採用定着を強化するためにも、明示すべき事をはっきり伝え、なぜ当社はこのようなルールになっているのか、といった理由や背景、思いを伝えて共感・協力を引き出せるようにしたいところです。
労働契約法の基本原則(労働契約法の概要)
契約自体は口頭で成立しますが、労働契約法の基本内容である5原則はしっかり押さえておきたい部分です。
※以下、厚生労働省「労働契約法の概要について」より抜粋
近年、就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定・変更されるようになり、個別労働関係紛争が増加しています。このような中で、平成20年3月から労働契約法が施行され、労働契約についての基本的なルールを明らかにすることで、個別労働紛争を未然に防止し、労働者の保護を図りながら、個別の労働関係の安定に資することが期待されています。
各用語の解説
これらの原則は、企業と労働者の間の平等かつ公正な関係を築くための基盤となる考え方です。
労使の協調関係を築き経営目的を達成するには必須となるものです。
労使対等の原則:
労働者と会社の双方が対等な立場で話し合いを進め合意に基づいて契約締結・変更するべき
均衡考慮の原則:
労働者の権利と企業の権利・利益をバランスよく考慮する。正規、非正規という区別でなく就業実態に応じて契約締結・変更するべき
仕事と生活の調和への配慮の原則:
育児・介護など労働者の仕事と私生活のバランスを重視し、健康や家庭生活を考慮して契約締結・変更するべき
信義誠実の原則:
労使ともに信義に従い誠実に権利行使と義務の履行を行うべき
権利濫用の禁止の原則:
与えられた権利を不当や不適切な方法で使用することを禁止する考え。労使ともに権利を濫用してはならない
労働契約・雇用契約の締結について
上記で述べたとおり、口頭でも契約は成立しますがトラブル予防の観点からは、労働条件の明示のみでなく契約書を交わすに超したことはありません。労働条件は必ず明示しなければならないので、明示すべき労働条件を記載した契約書を作成し締結するケースが多いです。
但し、契約書を作成し締結、回収、管理などをする事務負担も無視できないので、パート・アルバイトは労働条件通知書を一方的に交付する。という対応も考えられます。
労働契約と雇用契約の違いとは?
「雇用契約」は民法で定められており、「労働契約」は労働契約法で定められています。
実務上は、違いを意識して切り分けて運用しているケースは少ないのでは?と思います。
要は一般的に同じような意味で使われている印象です。
契約書の締結・回収時期
契約書は労使双方が契約の内容に同意したことを示す書類です。2部作成し、同じ原本を1通ずつ各自で保管しておくことが一般的です。勤務当日に中見を確認してもらうよりも事前に交付して当日捺印済みのものを持参してもらえるよう段取りしておくとスムーズです。回収が遅れるほど、面接のときの説明と異なる、などと言われて契約書が回収できなくなるリスクが出てきます。
実際に契約をする場合の要注意事例
従業員数が10人以上の事業場
従業員に周知された就業規則が存在している。
従業員と個別に結んだ労働契約が就業規則の内容を下回っていないか確認する。
労働契約法第12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」となっています。
よくあるケースで、パートさんの個別の契約書には、特別休暇、賞与、退職金の記載がないが、就業規則には与えるといった記載があります。
雇用契約書の内容は、就業規則の内容を下回ってはなりません。トラブルが起こる要因になので確認するようにしましょう。固定残業代など賃金規程に記載された手当の支給要件・内容が実態と異なる。さらに労働契約書や給与明細との不整合があり従業員とトラブルになる事例は少なくありません。
まとめ
このように全体のバランスを考えて作成する必要があるので、規程の見直しも関わってくることがあります。何から着手すればいいのか分からない。という方は人事労務に関する専門家である社会保険労務士へお気軽にご相談ください。
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